金銭

貨幣

'''貨幣'''(かへい)とは、経済学上、「価値尺度」「交換の媒介」「価値の保蔵」の機能を持ったモノである。一方で、慣習的な用法として、法令用語の意味における貨幣と紙幣・銀行券をあわせた通貨貨幣(=お金)と呼ぶことが多い。貨幣(として用いられるモノ)が額面通りの価値を持つためには、その貨幣に'''信用'''があることが必要かつ十分条件である。
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貨幣の機能

かつて貨幣本位貨幣(本位金、銀貨)を指す言葉であり、政府紙幣銀行券とは区別していた。現在の日本における法令用語としての「貨幣」は、もっぱら補助貨幣の性格を持つ硬貨のみを指し、「紙幣」及び「銀行券」とは区別されている。

経済学の中では貨幣という用語は、銀行当座預金普通預金などの預金通貨や、定期預金などの準通貨を含むより広い意味で用いられることが多い。貨幣数量説、貨幣乗数などの用語における貨幣は、こうした用例である。

貨幣の価値」は「貨幣のモノとしての価値」とは異なる。例えば、不換紙幣の場合、モノとしての千円札は印刷物でしかない。「千円札」を文字や模様が印刷された紙として利用して得られる効用は、「千円で売られているランチ」から得られる効用に及ばない。

貨幣の重要な機能として次のようなものがあり、いずれかに用いられていれば貨幣と見なせる。それぞれの機能は別個の起源と目的をもっている。非市場経済においては、貨幣は目的別に分かれており、その身分により使える貨幣が決まっていたり、共同体の内部と外部とで用いられる貨幣が異なっていた。すべての機能を含む全目的な貨幣が現われたのは、文字をもつ社会が誕生して以降となる。

● 価値の尺度
  貨幣は、計量可能なモノ()の市場(しじょう)における交換価値を客観的に表す尺度となる。これによって異なるモノの価値を、同一の貨幣において''比較ないし計算''(計算単位)することができる。例えば、本20冊と牛1頭といった比較が客観的に可能になり価格を計算できる。
● 支払
  計量可能なモノを渡し、責務を決済する。初期社会では特に示談金、損害賠償、租税などの制度と関連して生じた。
● 価値の保蔵
  計量可能なモノを貨幣に交換することで、モノの価値を保蔵することができる。例えば、モノとしての大根1本は腐敗すれば消滅するが、貨幣に換えておけば将来大根1本が入手可能となる。あるいは「大根1本の価値」を保蔵できる。ただし、自由な取引の元では通貨価値ないし物価変動により貨幣で入手できるモノの量は増減することがあり、貨幣による価値の保蔵機能は完全ではない。
● 交換の媒介
  貨幣を介する社会では、計量可能なモノと貨幣を相互に交換することで、共通に認められた価値である貨幣を介することで取引をスムーズに行える。これに対し、貨幣を介さない等価交換においては、取引が成立する条件として、相手が自分の欲しいモノを持っていることと同時に、自分が相手の欲しいモノを持っていることが必要となる。
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貨幣の歴史

等価交換が盛んに行なわれるようになると、物資の交換に伴う不便を取り除くための代替物が、交換に用いられるようになった。これを物品貨幣(自然貨幣)または原始貨幣と呼ぶ。物品貨幣は、貝殻などの自然貨幣家畜穀物などの商品貨幣とに分類される。代表的な物品貨幣タカラガイなどの貝類(古代中国、オセアニア、アフリカ)、石類(オセアニア)、穀物(バビロニア)や(日本)等がある。貝・羽毛鼈甲鯨歯など装飾品や儀礼的呪術的なものも見られるが、その背景に宗教的意義を持つ場合が少なくない。

時代が下ると、青銅、あるいはなどの金属貨幣として使われるようになった。最初は地金を秤量することで貨幣として使用していたが(→秤量貨幣)、やがて計数貨幣として金属を鋳造した貨幣が現れた。現存する最古の鋳造貨幣紀元前7世紀リディア王国で作られたエレクトロン貨といわれている。また、中国では原始貨幣をかたどった鋳造貨幣が作られた(貝貨・刀貨・布貨)。金属は保存性・等質性・分割性・運搬性など貨幣としての必要な条件を満たしていることが普及につながった。古代エジプトでは鋳造貨幣は対外交易の際の決済通貨として用いられる程度であり、本格的に鋳造貨幣が流入するのはアレクサンドロスによる征服以降であった。ローマ帝国は兵士の給与に銀貨を大量に用いたため、地中海世界で銀貨、および銀貨を補う高額通貨の金貨、低額通貨としての銅貨が定着した。ローマ軍団兵の給与は「」で給付され、それがサラリーの語源であるとの説があるが俗説の域をでない。salariumは兵士ではなく高位の役職者に対して定期的に支払われる給与であり、なぜsal(塩)を語源にしているのかは文献的・歴史的には確定できない。古代から中世にかけての金属貨幣は、金属資源の採掘量に左右される傾向にあり、従来の鉱山が枯渇すると貨幣制度はしばしば重大な脅威を受けた。

鋳造貨幣はしばしば政府や領主などの発行権者が通貨発行益を得る目的で発行され、額面が地金の価値を上回ることがあった。これは一方で贋金の横行を呼んだため、権力者は取り締まりに苦慮することになった。信用通貨と贋金の問題はおそらく貨幣の歴史と同じくらい古いであろうと思われる。価値の裏付けを金属に求めながら、地金価値と額面を厳密に一致させる「本位貨幣」制の確立は近代以降であり、近代以前の貨幣制度を単純にそれで理解することは難しい。

金銀本位制であったといわれる古代ローマ帝国では、銀貨のデナリウス貨は発行当初、98%の銀を含有していたが、軍費調達や財政再建の目的で徐々に品位は低下していき、アウレリアヌス帝の頃には含有率3%以下まで下がったため、グレシャムの法則に従って良貨は駆逐された。貴金属ではない銅貨(青銅貨)はその地金価値が低かったため、金銀貨との比価を定めた補助貨幣として利用されたが、多くは政府の定めた比価ではなく市場価格に従って取引された。

中世になると紙幣が登場した。世界初の紙幣代に鉄銭の預り証として発行された交子である。中世末期に入って、ヨーロッパでは大航海時代価格革命から商業的に大量の金銀が使用されるようになる。この金銀をそれまでのように取引に使用すれば、盗難や磨耗の危険がある。そのため人々は金銀を貴金属細工商の金庫に預け、代わりに証書を受け取った。証書はいつでも金銀に交換可能なため、紙切れでありながら価値を持った。人々は、やがて証書を使用して取引をするようになり、これが現代の紙幣の先祖にあたる。証書を発行していた商人は、金銀が頻繁に引き出されなくなったため、証書を金銀の裏付けの無いまま発行して融資する業務を開始した。これが、現代の銀行の先祖に当たる。時代が下って、様々な商人が証書を発行するようになったため、これらの「銀行」が統一され紙幣発行権限をもつ中央銀行となった。諸銀行は、証書(紙幣)を預かる商業銀行となって現在に続いている。

法的に平価が定められ、金の裏付けをもとにして証書(紙幣)が発行される通貨制度を金本位制と呼ぶ。金本位制は度重なる変遷を得た後、第一次世界大戦から世界恐慌頃に相次いで停止され、第二次世界大戦後はブレトン・ウッズ体制下において、USドルのみが金と兌換でき、その他の通貨はUSドルと固定相場制をとることで価値を保証した。ニクソンショック後は、USドルと金の兌換が停止され、主要国は変動相場制へ移行。主要な通貨は、戦後に急成長した実体経済の経済力を背景に価値をもつこととなった。なお、現在でも信用力の低い国などが、USドルと固定相場制をとるか、あるいはUSドルそのものを自国通貨とすることで価値を保証している場合がある。

現代経済においては、国家は流通の安定のために法律によって通貨に強制通用力をもたせている。これを特に法定通貨信用貨幣という。このため、交換の媒介として所定の通貨を用いることを拒否することは通常出来ない。また、この法貨にあたる現金通貨は(日銀当座預金とともに)支払完了性を有しており、取引を無条件に完了させる決済手段として中央銀行がこれを提供している。
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古代

日本での最初の官銭708年和銅元年)から鋳造された和同開珎とされる(和同開珎には、銀貨銅貨がある)。和同開珎はから輸入して使われていた開元通宝をモデルにしたといわれる。なお、1999年1月19日奈良県明日香村富本銭が数十点発見され、奈良国立文化財研究所は日本最古の貨幣の可能性があると発表した。以前は富本銭は貨幣として使われず厭勝銭(まじない用の銭)だと考えられていたが、その考えに一石を投じる事となり、今日まで論争が続けられている。富本銭よりもさらに前の貨幣として、無文銀銭の存在が知られている。

飛鳥時代の和銅元年(708年)から平安時代中期の天徳2年(958年)まで250年間に、和同開珎から乾元大宝までの12種類の銅貨が発行された。朝廷が発行したことから皇朝十二銭と呼ばれている。原材料の銅の不足と、改鋳益を得るため、改鋳の度に目方と金質が低下した新貨を旧貨の10倍の価値で通用させようとしたことが貨幣の価値や信用を大きく低下させ、民衆の銭離れを引き起こした。765年神功開宝の発行の際は、旧貨である萬年通宝と同価での並行通用であった。和同開珎発行3年後の和銅4年(712年)10月に「蓄銭叙位法(ちくせんじょいほう)」を出して、銭貨は物の売買の交換手段であることを強調している。

古代においては全く価値体系の違うモノとも交換を可能にする貨幣に対して、異界(あの世)との仲立ちなども可能であるとする宗教的な意味を持たせる事があった。日本最古の貨幣とされる富本銭は流通目的ではなく厭勝銭(まじない銭)目的であったとする学説や、三途の川の渡し賃として6文銭をに入れたと言う古い慣習、古い寺院跡の発掘の際に古銭が併せて出土される事実など、貨幣と宗教の繋がりを想起させる話が多く残されている。
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中世

皇朝十二銭以降、朝廷は貨幣の発行を停止し、11世紀前期からはもっぱらが代用貨幣として用いられる時期が続いた。だが、この時期になると商業が活発化して貨幣の必要性は高まり、平安時代中期から戦国時代までは、中国との貿易を通じて流入した北宋南宋貨幣宋銭)や永樂通寳などがそのまま自国の貨幣として通用した。それでも輸入銭だけでは足りなかったため、豪族や大商人が発行した私鋳銭も流通したが、粗悪な出来だったため「鐚銭(びたせん)」と呼ばれて撰銭の対象とされた。また鐚銭の多くは数百年の流通により、割れ、欠け、磨耗の著しくなった宋銭などが大半を占めた。「ビタ一文受け取らない」のビタとは鐚銭のことである。戦国時代に入ると、明の通貨政策の変更(銅銭の主要通貨からの除外と海禁政策)による日本への銅銭流入の停止と金山銀山の開発が活発となり、戦費調達に多額の資金を必要とするようになり、砂金および灰吹銀が大口取引に用いられ、やがて金銀貨(領国貨幣)が戦国大名の命により鋳造されるようになった。当時は東日本では金山が多く、西日本では銀山が多かったために金の使用圏が東日本に、銀の使用圏が西日本に集中する事になり、後世にまで影響を与える事になる。また、鐚銭を巡るトラブルが絶えなかったために室町幕府や諸大名によって「撰銭(えりぜに)禁止令」が度々出され、織田信長豊臣秀吉によって一層強化されたが、新しい統一政権にはまだ新規の銅銭を発行できるだけの政治的・経済的基盤が乏しく、明が産銅の減少から銅銭鋳造を事実上停止したために日本に銅銭が入らなくなる。庶民は厳罰の恐れと流通量減少によって物々交換で取引を始めるようになり、再び銭離れが発生するようになった。重商主義的要素の強いとされる豊臣政権において、一見矛盾するように見られる石高制が取り入れられたのはそうした事情が背景があると考えられている。また過度の貨幣経済の発展は農民の離農を招く恐れがあることから、封建制度を維持させるため敢えて年貢を米で納めさせる政策を取ったものと考えられ、これは徳川幕府にも継承された。次のエントリ[ 近世 ]

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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